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研究内容

当研究室では、細胞が外環境からのストレスを感知して形や運動の制御、遺伝子発現調節を行う応答の分子機構を研究しています。

主な研究課題

1. 細胞の力覚応答(メカノストレス応答)の分子機構の解明

 ・力覚応答に関与するアクチン骨格制御因子Rho-GEF, Soloの細胞集団の秩序化における機能解析

 ・Soloおよび力覚応答に関与するRho-GEFの関連タンパク質の探索

 ・メカノセンサータンパク質の同定とそのシグナル伝達機構の解明

 上皮細胞集団の細胞競合による変異細胞排除における力覚応答の機能解明

 ・テンションセンサープローブの開発

2. 細胞のストレス応答の分子機構の解明

 ・浸透圧ストレスにおけるプロリン水酸化酵素の機能解明

 ・エネルギー飢餓におけるコフィリンロッド形成の機能解明

​これまでの研究

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1. 細胞の力覚応答(メカノストレス応答)の分子機構の解明

研究内容の概要

 私たちの体を構成する細胞は、様々な外環境の状況に合わせてその形や性質を変化させています。細胞に機械的な力が加わったときにも細胞が適切に応答しないと私たちの体は維持できませんが、細胞は細胞骨格と呼ばれる細胞内の構造をその状況に合った細胞の中の場所とタイミングで作り変えることで対応しています。例えば、骨や筋肉は負荷をかけた運動で強くなりますが、使わないと衰えていきます。血管内では血流の流れの力によって血圧調節などが行われます。より基本的なところでは、組織や器官、体の複雑な形ができていくためには構成する細胞集団の中で力のバランスの変化が必ず必要です。これらの応答は細胞が力を感じて応答することが重要であることは明らかですが、それを司る分子機構は未だ不明な部分が多く残されています。私たちは、このような細胞に作用する力を細胞がどのように感知して、どのように応答しているか、その仕組みを細胞骨格の作りかえを指標に分子のレベルで解明することを目指しています。

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各研究課題

力覚応答に関与するアクチン骨格制御因子Rho-GEF, Soloの細胞集団の秩序化における機能解析

 私たちはこれまでに、血管内皮細胞に対する繰り返し伸展刺激による細胞の配向(方向転換)に関与するアクチン骨格の再構築制御因子を探索し、低分子量Gタンパク質Rhoファミリーの活性化因子であるRhoグアニンヌクレオチド交換因子(Rho-GEF)を11種類同定することに成功しました(Abiko et al. 2015, これまでの研究1参照)。その一つであるSoloについて研究を進めています。Soloは、血管内皮細胞や上皮細胞に対する張力の負荷によるRhoAの活性化に必要であることや中間径フィラメントであるケラチン8/18繊維に結合すること、細胞内のケラチン8/18繊維の正常なネットワーク形成に必要であることをこれまでに明らかにしてきました。Soloは、細胞間接着(Abiko et al. 2015)、細胞-基質間接着部位の両方からの張力に依存した応答に関与することも明らかにしています(Fujiwara et al. 2016, これまでの研究1参照)。これらの経緯から、Soloは、細胞に負荷された張力に対して抵抗する力を発する働きを持つことが示唆されました。これは、細胞が集団となって秩序化する上で、隣の細胞との力のバランスを制御する働きであると考えられました。これらの仮説をもとに、上皮細胞が上皮組織の形態形成を行う過程を想定し、基本的な細胞集団の秩序化のモデルとして、上皮細胞の集団移動、3次元環境における管腔形成に注目してSoloの機能解析を進めています。

 具体的には、イヌ腎臓の尿細管由来のMDCK細胞の細胞集団が平面の上を移動する時に、細胞の移動速度、移動する方向性などを解析し、細胞が協調して一方向に一定の速度で移動する細胞間の力のバランスの制御、細胞骨格の再構築制御におけるSoloの機能を解析しています。また、このMDCK細胞をコラーゲンでできたゲルの中で3次元培養し、MDCK細胞が尿細管を模した管腔構造を形成する上で、その形成過程や形状におけるSoloの機能解析を行っています。解析方法は、生細胞の動態を観察するイメージング解析とSoloの活性を測定する生化学的な解析方法を用いています。

 

Soloおよび力覚応答に関与するRho-GEFの関連タンパク質の探索

 Soloをはじめとする力覚応答に関与するRho-GEFを11種類同定しましたが、細胞が機械的な力を感知する分子(メカノセンサータンパク質)や分子機構(メカノセンサーシステム)は不明であるため、同定したRho-GEFを手がかりに探索を行っています。これまでにSoloについてヒト乳癌細胞内で結合しているタンパク質をプロテオミクス解析によって探索し、中間径フィラメントの一つであるケラチン8/18繊維がSoloと結合することを見出しました。その後の解析によって、Soloとケラチン8/18繊維との結合は、力覚応答におけるSoloの機能発現に必要であることが明らかとなり、ケラチン繊維と関連した分子、又は、Solo自身がメカノセンサータンパク質である可能性が示唆されています。他のSolo結合タンパク質やその他の10種類のRho-GEFタンパク質と結合するタンパク質がメカノセンサーとして機能するものがあると考えられることやメカノセンサーシステムとして働く構成タンパク質が存在することが予想されました。そのため、生細胞内で注目するタンパク質に相互作用するタンパク質をビオチンラベルするBioID法を導入し、力覚応答に関与する11種類のRho-GEFと細胞内で相互作用するタンパク質を網羅的に同定することを行っています。この方法を用いることで、力の作用によって相互作用する分子を同定することが可能となるため、見出したタンパク質がメカノセンサーであることも検証することができると考えて研究を進めています。

 

メカノセンサータンパク質の同定とそのシグナル伝達機構の解明

 細胞への張力負荷によって、Solo, GEF-H1, Largを介してRhoAが活性化されることが明らかにされています。また、他のRhoファミリータンパク質も活性化されることが予想されます。これらの応答において、張力の感知からRho-GEFの活性化に至るメカノセンサータンパク質とそのシグナル伝達経路を解明することを目指しています。前項のプロテオミクス解析によって同定されるタンパク質について、発現抑制実験や過剰発現によって張力の負荷によるRhoAの活性化を指標にそのシグナル伝達経路を解析します。また、BioID法によって張力の負荷に依存したタンパク質相互作用を検出しメカノセンサータンパク質とその作用機序を解明することを目指しています。

 

上皮細胞集団の細胞競合による変異細胞排除における力覚応答の機能解明

 上皮組織において癌化する可能性のある形質転換細胞(変異細胞)を周囲の正常細胞が感知して物理的に細胞を生体の外部へ排出する現象が見出され、生体が有する癌予防の重要な働きの一つであることが示唆されています。これは、異なる性質の細胞が競合して片方を排除する細胞競合と呼ばれる現象の一つであると考えられています。この一連の細胞集団の振る舞いは、変異細胞と正常細胞の接着における機械的な力の作用が重要であると考えられます。私たちは、哺乳類の上皮細胞シート内に発生した変異細胞に対する周囲の正常細胞による認識機構と変異細胞を排除する機構における力覚応答の役割を明らかにすることを行います。私たちは前述のように、アクチン骨格の再構築を制御する力覚応答に関与するRhoファミリーの活性化因子Rho-GEFを11種類同定し、その中の一つであるSoloの機能解析を進めています。Soloを中心とした分子機構が、変異による細胞の機械的特性の変化を感知して変異細胞を認識する機構に寄与する可能性を、細胞競合時の細胞骨格の動的状態を可視化して検討します。また、変異細胞を取り囲む正常細胞が時空間的に協調してアクチン骨格とケラチン8/18繊維を再構築し、変異細胞を排除する過程におけるSoloとその関連分子の機能を解明します。さらに、これまでに同定したSolo以外の力覚応答に関与する10種類のRho-GEFの細胞競合における機能を解析していきます。これらの解析を通して、細胞競合における力覚応答の生理的な意義、特に、癌に対する生体防御機構とその破綻による癌発症の新たなメカニズムの解明を目指します。

本研究課題は、文部科学省科学研究費補助金新学術領域研究「細胞競合-細胞社会を支える適者生存システム-」の公募研究班として行っている研究です。

 

テンションセンサープローブの開発

 細胞に作用する力や細胞が発する力をリアルタイムで可視化することは、力覚応答の分子機構を解明する上で有効な技術です。これまでに、細胞が付着する基質の変形や力の負荷で蛍光特性が変化するテンションセンサープローブが開発されていますが、まだ簡便に用いることができる方法ではありません。私たちは、この技術的な課題を解決するために、新たなテンションセンサープローブの開発を行っています。細胞間、細胞-基質間に作用する張力を高感度で検出するために、張力によって蛍光発色が消失する蛍光タンパク質の開発に挑戦しています。

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2. 細胞のストレス応答の分子機構の解明

 細胞のエネルギー供給に関わるストレス応答は、細胞の生死を左右する重要なシステムです。低酸素ストレスはその一つであり、生体防御、癌の悪性化においても重要な役割を持っており、低酸素ストレス応答で遺伝子発現調節を行う代表的なタンパク質の一つがHIF-1です。低酸素ストレスに適応するための遺伝子誘導機構においてプロリン水酸化酵素PHDは低酸素誘導因子HIFの活性を調節しており、細胞内の酸素センサーとして機能しています。我々はPHDファミリーの一つであるPHD3がHIFとは異なるストレス応答経路を制御することを見出し,その分子機構を解析しています。

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